全国映画教育協議会設立趣意書
かつてはどこの国でも、撮影所が映画制作の教育機関であった。撮影所は未経験者を社員として採用し、給料を支給しつつ演出家を含むすべてのスタッフを育成することで、自社作品の質を維持し、興行的成功を収めようとしたのが世界の映画会社の戦略であった。
しかしTVとの戦いに疲弊した1970年代以降、映画産業の背骨であったスタジオ・システムが崩壊するにつれて、撮影所に代わる映画制作教育機関として、ヨーロッパでは国立映画アカデミーが、英・米国では大学内に映画制作系の学科が、映画産業およびTV、CM業界の次世代育成を委ねられることとなった。
その流れに、プロ並みの機材がなくても映像・映画が作れる新しいメディア=ビデオが登場、若者にとって映画は鑑賞だけでなく創作の対象へと移行する間に、日本の映像メディア芸術は我が国の基幹産業の一つに成長、全国の大学に次々と“映像学科”が創設されていく。
しかし大学にとっては専門的教員配備および設備投資の負担は大きく、一部の例外を除けば、実験映画、個人映画、CM、CG、PV等を中心とする主に“映像クリエーター”育成という役割を果たしてきた。しかし21世紀に入っては、映画制作そのものを教える大学・各種学校が増え、今や15校以上に及ぶが、それは上記の問題が解決したことを示すわけではなく、制作および機材・設備資金の不足、成果発表の機会不足、卒業後の活躍の場の狭さが主因の学生数の減少傾向など、どの大学も問題山積の状況下にある。
映像制作が個人的な表現行為であり費用も個人負担なのに対して、映画制作は共同作業であり、産業へと繋がる職業教育であり、高額な費用を必要とする。また映画制作教育のために整えるべき環境は非常に多様、特殊、高価なものだが、それなくして満足な制作体勢は不可能であり、映画・映像産業の次世代育成の任務も果たし得ないという解決の見えない難題を、どの大学もが抱えている。
そこで、当協議会は映画制作教育を行っている大学間の緊密な連携をはかり、国際競争力のある人材を、産学官の連携のなかで育成していくために結成しようと有志が動き始めたものである。
そして当面の具体的かつ重要な問題としては以下の諸点が考えられる。
- 大学間連携、学生交流、教育プログラムの共同開発などによって、教育研究を活性化する。
- 個別の大学では困難な機材や設備の整備、および学生に負担を強いるには大き過ぎる映画制作費へのさまざまなかたちの支援を、官民に共同で働きかける。
- 映像学科卒業生が、美術館・図書館・ホール等の公共文化施設で専門知識を生かした職を得ることで、地域の文化水準の向上に寄与する、映像系資格制度を新設すること。
- 学校教育への映画鑑賞、映像制作教育の導入を産学官が協力して実現する。
未来の映画のために、「全国映画教育協議会」への結集をお願いしたい。
2012年3月1日
発起人代表 佐々木史朗(日本映画大学)
同 堀越謙三(東京芸術大学)